群馬大学の次世代モビリティ社会実装研究センター(2016年12月開設)は、複数の自治体やバス事業者等と共同で自動運転バスの研究開発と実証実験を進めており、興味深く参考になると思う。
地方のバス事業者は危機的な状況にあると言われ、2016年度時点で、大型2種免許の保有者が最も多いのが60歳代(約25万人)、これに続くのが70歳代と50歳代(共に約20万人)で、状況は今後ますます深刻化するらしい。
自動で走行するロボット車両が実用化すれば、バス事業のコストの6割を占める人件費を圧縮したうえで、路線や便数を増やせ、収益構造を劇的に改善できる可能性、さらに定ルート走行の路線バスだけでなく、例えば、小型車両を使って、住民のリクエストに応じて配車するオンデマンド型移動サービスを提供するなど、事業の幅を広げられる可能性もあるようだ。
前橋市などと組んで行う実証実験では、営業中の路線バスで行う点が画期的で、、日本中央バス(前橋市)が運行するJR前橋駅と上毛電鉄中央前橋駅を結ぶ約1キロのシャトルバス路線で実施、ハンドル・ブレーキ操作を自動化した「レベル2」の自動運転で行い、運転手も乗車し、万一の場合に備えてハンドルに両手を添えた状態で走行するという。
2018年中には自動運転によるシャトルバスの営業運転を開始する計画で、群馬大学ではレベル4の完全自動運転にフォーカスした研究開発を行っており、将来的には完全自動運転によるバス運行を目指すらしい。
また、神戸市やNTTドコモ等が共同で行う実証実験では、群馬大学がミニバンを改造した自動運転車と自動走行システムを提供、同市北区筑紫が丘で約2カ月間にわたり、地域住民が買物や病院への通院などに利用するサービスの検証を行なっているようだ。
要するに、自動運転を使った近距離圏内の移動サービスによって生活の足を確保しようとするものである。
決まったルートだけを走るシャトルバスや路線バスならば、自動運転のベースとなる道路・地図情報や交通管制の仕組みもシンプルに構築・運用でき、例えば信号機の認識1つとっても、場所が変われば形・色が微妙に異なるため、広域に対応するのは非常に困難だが、ルートが一定なら信号機の認識はもちろん、事故や工事等による道路事情の変化にも対応しやすい、というのは尤もだと思う。
さらに、ソフトバンクグループのSBドライブでは、自動運転バスの社会実装を目指し、モバイル通信をより活用したアプローチで進めているようだ。
沖縄を中心に内閣府による自動運転バス実験等に参加しており、また、福岡県北九州市や長野県白馬村など4つの自治体と連携協定を締結、地域によって異なる交通事情に合わせた運行モデルと、求められる要件を検証しているらしい。
自動運転の車両制御は基本的に自律走行型で、路車協調は補助的な位置付けだが、運転手や乗務員が不在でも安全な運行と接客サービスを実現するために通信サービスを活用する考えらしい。
遠隔地のオペレーターが車両内のカメラ映像や走行データを見ながら乗車・降車時の業務を行ったり、スピーカーを通して音声で注意喚起をしたり、乗客とコミュニケーションをとって行き先案内や質問への対応を行うといったサービスを検証しているようだ。
一般に、カーシェアやライドシェアの分野では、Uberに代表される“ディスラプター”の参入が活発で、ともすれば既存のバス会社が駆逐される恐れもあるとされるが、移動サービスの提供には車両の保有・管理から緊急時の駆けつけまで、地元事業者にしかできない業務が不可欠であり、警察等との連携も含め、地域特有の交通事情に精通している必要もあるため、担い手はバス会社等の地域の事業者になると期待されているというのは、尤もだと思う。
IT起業研究所ITInvC代表 小松仁