「ホワイトカラー・エグゼンプション」の論議に関連し、現在の日本経済は「仕事のやり方」という意味で世界から周回遅れになっているとし、現在の日本社会で労働時間規制を緩和するということは論外であり、反対に徹底的に強化するべきと、冷泉彰彦さんが論じている内容が興味深い。
どうして日本の労働時間が長いのか?、どうして日本の多くの産業で国際競争力が落ちたのか?、それは日本の「仕事のやり方」にあるとしている。
1993年にサムスンの李健熙(イ・ゴンヒ)会長が「新経営方針」を打ち出し、以降の同社は世界のエレクトロニクス産業における頂点に上り詰めるわけだが、その方針を受けたソウルの本社では「就業時間は午後4時まで」として「以降残って残業しているものは無能」だとして徹底的に生産性を要求したという話は面白い。
日本の仕事のやり方で問題として挙げられているのは以下の点で納得のいくことが多い。
(1)意思決定を少数で迅速に下す組織になっておらず、責任を分散するための「ヨコの合議」と同時に、最先端の知識と情報が現場にしかないので「現場とのタテの合議」が必要になっている。
(2)合議の場ですらない儀式的なイベントが多すぎる。
(3)多くの組織で公式の会議は儀式化しており、本質的な問題点の検討や事実上の意思決定は非公式な討議で決定される二重構造になっている。
(4)合議の際の「重要な局面」、「下から上への報告」、「問題が発生した際」には対面型コミュニケーションが原則になっており、「報告のための本社出張」であるとか「お得意先回り」といった活動に物凄い時間と労力がかかっている。
(5)電子化しても署名捺印した原本の紙を残さなくてはいけないとか、電子署名が普及しておらず、電子化しても一旦印刷してサインしてスキャンするとか、効率化が遅れている。
(6)英語がビジネスの公用語になっていないだけでなく、会計制度、契約の概念、許認可、諸規制、上場基準、情報開示など、何もかもが独自ルールになっているため、国際的な企業は「日本向け」の対応を余儀なくされ、二度手間、三度手間になっている。
(7)何でも「目で見て」理解する習慣が強いのが日本のビジネスカルチャーで、社内向けにも社外向けにも膨大な書類や、凝ったパワポ資料などが横行して、その作成と修正に膨大な時間がかかる。
(8)法律や会計基準、税制、労働法制など社会的なルールに抵触する「スレスレのグレーゾーンで」仕事をする――日本のビジネスカルチャーにはまだまだこうした風土が残っており、そのため決算のたびに「例外対応」や「オモテとウラの使い分け」をしなくてはならない。
少なくとも国際競争に携わっているならば、組織の大小を問わず、このような点を解消していく必要があると思う。
http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2014/05/post-644.php
宮本和明さんがventureclefサイトで、Google Glass向けに高度な医療システムやエネルギー関連ソリューションを開発しているベンチャー企業Wearable Intelligence社を紹介している内容が、示唆に富んでいて興味深い。
脳梗塞を発症した患者が救急車で病院に運ばれ、診断を受けるまでの医療行為の事例では次のようになっている。
ゝ澣渕屬涼罎任狼澣淆皸Google Glassを着装し、患者の情報を閲覧する、 グラスには患者の基本情報の他に、Chief Complaintとして、病状が表示されている。
病院に到着すると、担当医はGoogle Glassを着装して患者の治療に当たる、医師はグラスに表示された診察手順 (NIHSS Checklist) に沿って、患者の様態を調べて検査を行い、その様子をビデオで録画しHER (Electronic Health Record、医療システム) に送信するが、Google Glassに「当直の脳神経外科医にメッセージ送信」と指示し、症状を音声で入力し、専門医にメッセージを送る。
G梢牲亞芦憤紊話甘綮佞らのメッセージをタブレットで受信し、治療方針について打ち合わせを行い、CTスキャン検査結果をタブレットで閲覧し所見を述べる。
で梢牲亞芦憤紊録巴任侶覯漫◆TPA (血栓溶解剤) を処方する」とし、「静脈注射により0.9mg/kgの量を処方、最初の一分は10%濃度を上げ、一時間にわたり投与」と指示、担当医師はこの治療方針に従って処置を行う。
現在、Wearable Intelligence社Google Glass医療システムは、ハーバード大学医学大学院であるBeth Israel Deaconess Medical Centerで実証実験を行っているとのことで、このような事例と実績が順次積みあがっていくと、医療の現場の様子が大分変っていくかもしれない。
http://ventureclef.com/blog2/
CGIS研究主幹栗原潤氏が「21世紀のイノベーション」で紹介している、次の話は役に立つように思う。
(1)友人の英国人は長年、日本のハイテク製品の愛好者だったが、近年は韓国製品を買う機会が増えたとのこと、「なぜ日本企業は昔のように我々をワクワクさせるような製品を創らなくなったのか?、 マイケル・ポーター氏が『ザ・ストラテジー・リーダー』の中で語った通り、日本企業の多くは価格競争に注力し作業効率の向上だけに熱心で、グローバルという広い視野で新規の製品・サービスを開発する戦略を採らなかったからではないのか? 、日本の企業戦略に大きな"思考の盲点"があるのでは?」と不思議そうな顔で問いかけてきた。
(2)ソニーの中央研究所長として世界的に活躍した経験を持つ菊池誠氏の思い出話「何事でもそうだが、仕事の現場とその仕事によって完成した物との間には大きな差がある、優雅な色合いを持ちまた独特の感触の藍色の織物もそうしたものの一つだ、この独特の感触を持つ織物が美しい色に染め上げられる現場は、完成品からは想像もつかない修羅場だ、布や糸を壷の中のドロドロの染料に何度も繰り返して浸し、手も袖も染料にまみれた大変な作業を通じてあの魅力的な織物が出来上がる、研究開発活動もこれと同じだ、誰にも注目されず、また派手さの無い努力をくぐり抜けた先にこそ、優れた成果が生まれてくる。」
http://www.canon-igs.org/column/network/20140509_2559.html