全世界で約5万回シェアされているというスライド集『スタートアップサイエンス2017』の田所雅之氏が説く「スタートアップ創業者が起こしがちな21の間違い」が面白く参考になると思う。
間違い(1)詳細なビジネスプランを作る
スタートアップにおいては、プロダクトのスプリント(継続的な改善)やピボットが日常的に起き、ピボットを前提としないような企画書数十ページ分にも及ぶ詳細なモデルを作ることはそもそも間違い。
間違い(2)正確なファイナンシャル・プロジェクションを用意する
もちろん、ある程度売り上げの見通しを実現できる可能性が高まるシリーズA、シリーズBの投資を受ける段階ともなればプロジェクションが重要になるが、アイデアの検証(ベリフィケーション)をしているような、ビジネスの前提条件がまだ見えていない不確実な段階(シード期)では全く意味がない。
間違い(3)精緻なリポートにこだわる
既存の枠組みではすくい取れない顧客意識(顧客インサイト)の深掘り、潜在的課題の発見、市場に隠れていそうなアイデアのヒント(秘密)などを探して素早くメンバーに報告することがより重要になる。
間違い(4)「まあまあ好かれる」プロダクトを大勢の人向けに作る
スタートアップにとって「まあまあ好かれるプロダクト」を作ることは失敗を意味し、それでは市場を再定義するような破壊的イノベーションができるプロダクトにならないし、ターゲットとする市場で圧倒的なシェアを取るのは難しいだろう。
間違い(5)詳細な仕様書をもとに開発する
システムエンジニア経験者の起業家にありがちなわなで、スタートアップはいかに早くスプリントのサイクルを回せるかの勝負になるので、詳細な仕様書などは要らない。
間違い(6)最初に想定したビジネスモデルに執着する
スタートアップのビジネスモデルは顧客の反応によって常に覆されることを前提に作っていく必要があり、最初のアイデアが否定されたとしてもひるまずに、そこから学び続けることが重要である。
間違い(7)競合を意識しすぎる
競合をベンチマークしすぎて、「あの会社がこう動いたから僕たちも動こう」といった追随型になることは最初から負けを認めているようなものだ。
間違い(8)差別化を意識しすぎる
「競合と差別化できるサービスを作ろう」という発想は、カスタマーの声を考慮しない、作り手側のロジックに陥ってしまうことが多い。
間違い(9)Nice-to-haveな機能を追加する
スタートアップが注力すべきはMust-haveなコア機能に絞り、徹底的にその実現に取り組むことである。
間違い(10)最初からプロダクトデザインやユーザビリティーの細部にこだわる
完成度は70 %くらいで、どんどんローンチして、顧客のフィードバックを得たほうがよい、完成度80%、90%を目指すディテールの改善は、後からでよい。
間違い(11)最初からシステムの自動化・最適化を行う
初期段階で、いきなりシステムの自動化やプロダクトの最適化について考えるようなスタートアップは、アイデアの検証を徹底する前に成長するときのことを考えている、まさに、プレマチュアスケーリング(未成熟なままの拡大)そのものだ。
間違い(12)ビジネスモデルが出来上がる前に積極的に人を雇う
ビジネスモデルを模索しているPMF(プロダクト・マーケット・フィット プロダクトと顧客のニーズが完全にシンクロする状態)前の段階では、その会社で必要なプロセスやメンバーの役割分担の切り分けは不透明な状態が続く。ビジネスモデルが変われば、必要な人材の質(能力)や配分もまったく変わる。
特に注意したいのが特定のスキルに秀でた人材を早くに雇うことで、特定分野の専門家はソリューションそのものに直結し、その人材を活用するために開発したプロダクトは課題ドリブンではなく、ソリューションドリブンになりかねない。
間違い(13)直接関係のないネットワークイベントや飲み会に参加する
起業家がまず会いに行くべき相手は顧客であり、次は自分と一緒にスタートアップに参画してくれそうな仲間である。
間違い(14)経歴が立派な営業責任者や事業開発担当者を雇う
初期の頃は、メンバー全員があらゆる仕事を分け隔てなくやらないと回らないのに、「私はマネジメントで参画したのでこんな雑務はしない」「自分は、実績のあるエンジニアなので、顧客サポートはしない」といった人がメンバーに入ると、なんでもやろうとしている他のメンバーに不公平感が生じる。
間違い(15)ビジネスモデルの検証が終わる前にパートナーシップや独占契約を結ぶ
スタートアップはスケールするために、自社から直接顧客にプロダクトを届けながら競争優位性を築くべきで、特定の企業との関係性に依存し、その企業を通じて間接的にしか顧客のフィードバックを得られなくなる状況は避けたい。
他企業とのパートナーシップを構築するのはPMFを達成して、ビジネスの採算性を合理的に求める段階になって考慮すべきことだ。
間違い(16)セールスよりもマーケティングやPRにフォーカスする
初期段階のスタートアップが注力すべきはセールスで、ただし、ここでいうセールスとはカスタマーに商品を売り込むことではなく、カスタマーと直接対話して、ネガティブなものも含めフィードバックをどんどんもらい、プロダクトを磨き込むこと、顧客と対話する現場にはファウンダー自ら足を運び、直接行うべきである。
間違い(17)仕事の役割を厳密に設ける
初期の段階ではメンバー全員でビジネスモデルを構築していくことが重要になり、そのためにはメンバー間の密なコミュニケーションこそが重要であり、得手不得手のみを基準にした縦割りの役割分担をこの段階で持ち込むべきではない。
間違い(18)NDAを交わす
投資家とスタートアップの世界は紹介文化である、「この前、イケてるスタートアップと会ってさ」といった情報交換を兼ねた投資家同士のコミュニケーションは日常的に交わされるが、どこかの企業とNDAを交わしてしまった瞬間に他の投資家に込み入った話ができなくなってしまう。
もう一つは、アイデア自体に大した価値はないということ、「Ideas arecheap,execution is everything(アイデア自体は安いもので、それをどう実現するかがプロダクトの価値の全てだ)」この視点を忘れてはいけない。
間違い(19)受託開発や業務委託を必要以上に受ける
間違っても本業がおろそかになってはいけないし、受託開発や長期にわたるプロジェクトや手離れの悪い案件を受けるのも避けたい。
間違い(20)業界の専門家からのアドバイスに頼る
資金調達、人事採用、戦略策定などの専門家に助言を求めるのもよいが、最終的な判断を下すのはあくまでビジネスオーナーである自分たちであることを忘れてはいけない。
間違い(21)VCに積極的にアプローチする
基本的にスタートアップはPMFを達成してトラクション(事業の推進力)がある程度出てくる段階まではVCに積極的にアプローチしたり、ピッチイベントに登壇したりする必要はない。
課題とソリューション(解決策)の検証が済んで、方向性が見えたら、そこから資金調達を本格化すればよく、「今は自分が何に注力すべきか」という視点を忘れてはいけない。
IT起業研究所ITInvC代表 小松仁