スタンフォード大学アジア太平洋研究所、「StanfordSilicon Valley - New Japan Project」プロジェクトリーダーの櫛田 健児さんが、「シリコンバレーの日本企業が陥る 、10のワーストプラクティス(続編)」で指摘している点が参考になると思う。
(1)日本流のアピール方法から抜け出せない
日本企業が自社をアピールするためにどうするかというと、たいていはパワーポイントを印刷した資料を配って、みんなで読み合わせるという方法です。
しかし、これはシリコンバレーでは多くの人に刺さる方法とは言えません。
スタートアップの場合、全身全霊を傾けた渾身のアイデアを、わずか数分でプレゼンするというスタイルを身につけています。
彼らは数々の試練を突破して資金調達をして、必死でビジネスを拡大しようとしているので、なおさら相手にもポイントを押さえて手短に話してほしいんです。
これは日本の風習の良し悪しの話はなく、文化の違いの話です。
ただ、シリコンバレーで仲間を作ろうとする場合は、現地の文化に対応した方が成功確率は高いでしょう。
(2)社内のオセロゲームができない
シリコンバレーに来ていなかったり信じていない中間管理職がいて、社内のいろんな力学や妥協で、話が進まないからなんですね。
シリコンバレーに前向きなトップと現場ではさんでも、中間層がひっくり返ってくれない。
これが社内のオセロゲームができてない、という話です。
(3)社内政治によりシリコンバレーへの取り組みが180度変わる
一般的には、社内にはシリコンバレー崇拝型の人たちと拒絶型の人たち、両方が存在しています。
部署のトップがシリコンバレー崇拝型の人から拒絶型の人に代わると、現地では大変です。
これを避けるには、シリコンバレーオフィスの人は、社内の政治的な勢力図を把握しておくこと。
そして、その動きを注視していなければいけません。
本社の動きが見えなくならないよう、本社とのパイプを強くしておくことです。
(4)現地採用の経営陣をうまく評価できない
日本の人事部は、海外経験がなかったり、社内の方ばかり見ていたりするので、社外のシリコンバレーのトップを採用・評価するのはとても難しい。
(5)本社の人事制度を無理にシリコンバレーに当てはめる
日本企業の人事制度は、本質的にシリコンバレーを活用できてないようになっています。
日本の組織は人事ローテーションをして、そこでのパフォーマンスを評価して、昇進していく人は昇進していく。
そういう方式ですが、人がグルグルと出入りして入れ替わるシリコンバレーでは、そのまま日本の人事制度持ってきても意味がありません。
また、人事部の人たちがグローバル化されてないので、シリコンバレーに合った人事制度にすることが難しい。
(6)「中小企業」と「スタートアップ」の違いを理解していない
大企業は「中小企業」と「スタートアップ」の違いを分かってないことがあります。
「スタートアップ」と「中小企業」は全くの別物です。
スタートアップを中小企業と同じように扱ったら、仕事はうまくいきません。
ざっくり言ってしまうと、中小企業は生き残ることがメインなので、成長はゆるやかでもいい。
すぐに劇的な成長をしないと終わるという感じではなく、黒字になっていればやっていけます。
それはそれでスタートアップよりも余裕があるので、色々できることがありますが、スタートアップとは全く別物です。
一方、スタートアップはとにかく急成長しなくてはいけません。
しばらくは大赤字でも大丈夫で、急展開して一気に莫大な富を生み出して、将来黒字化しそうであれば良いのです。
ただ、スタートアップは急成長して次の投資に繋げないと会社が終わってしまうので、「崖から飛び降りて、地面に当たる前に飛行機を作って飛び立たねばならない」という感覚を持っていると、シリコンバレーでは頻繁に耳にします。
ベンチャーキャピタルは本当に急成長しそうなスタートアップにしか投資しませんから、猛烈なプレッシャーがかかるのです。
多少黒字になっていても、成長の度合いが遅すぎると、ベンチャーキャピタルの方が見切りをつけて売り飛ばしたり、経営層を入れ替えて急成長を狙い、それがうまくいかなかったらあっさり潰すこともあるわけです。
(7)M&A後の戦略がない
スタートアップのM&Aというのは、事業会社のM&Aとは根本的に違うということを理解しないといけません。
そしてM&A後の戦略がなければいけない。
よくあるワーストプラクティスの一つは、スタートアップを買収した後、放置してしまう。
下手にマネジメントするとうまくいかないかもしれないから、放置しておこうと考えるわけです。
ガンガン儲かっている事業会社ならば、放置しておくのもありかもしれませんが、スタートアップというのはだいたい赤字で、これからまだ伸びなければいけません。
でも大企業は「戦略的なストラテジーを補うために買い、これから伸ばすためのリソースをスタートアップに与える」ということをあまり考えていないケースが多いわけですね。
大企業が投資リターンだけを考えているのだったら、ポートフォリオ投資、VCみたいな投資をすればいいだけの話で、わざわざM&Aする必要がありません。
スタートアップは将来伸びるという可能性を評価されて買われるわけですが、大企業の社内に入れると、いち弱小グループにしかなりません。
メインの事業というのは、ものすごくリソースがあるし、優秀な人たちもたくさんいる。
スタートアップは人も少ないし、リソースもない。
そのため「こんな小っちゃいグループに、なんでわざわざ経営資源と財務的資源をたくさんあげるんですか?」という声が社内から出てくる。
これから伸びるという話というより、今あんまり業績よくないよねという話になり、だからリソースはあまり与えられないという話になってしまう。
そうすると、買収されたスタートアップの創業メンバーは面白くないので、どんどん辞めてしまう。
もともとの創業メンバーが辞めてしまったら、いよいよスタートアップは弱小グループでしかなくなり、社内からどんどん中核事業から外れた人が送り込まれて、失敗したらあそこへ行けみたいになってしまうケースがワーストプラクティスです。
(8)「うちで作れますよ症候群」でスタートアップを過剰否定
外部から新しいサービスや技術を取り入れる場合、既存の部門は自前じゃない技術に対して、過剰に否定的になりがちです。
「そんなサービスうちでもできるよ」と言って、既存の事業部が潰しにかかることがあるのです。
これは「それならうちでも作れるよ症候群」とでもいうべきものです。
(9)トップが新しい技術、ビジネスを評価できない
業界のペインポイントを解決する技術は、自社のビジネスを完全に否定する可能性もありますが、マーケットを全て持っていける可能性もあります。
ですから、経営者はスタートアップの新しいサービス・技術をきちんと評価できないといけません。
でも、日本の経営者はそういった訓練を受けているわけではありません。
社内で出世していく力と、戦略的なビジネスや技術を評価するスキルはだいぶ違うんですね。
出世していくスキルと、出世したポジションで必要とされるスキルがマッチしていないんです。
(10)既存のプロセスに縛られれば、いずれ会社は潰れる
アマゾンのジェフ・ベゾスが株主総会で「会社の決まったプロセスに則っていればそれでいい、という中間管理職が増えると、会社は死ぬ」と話していました。
今あるプロセスに則っているかそうでないかではなく、何が顧客にとって良いのか、ビジネスとして最適なのかの軸で考えるべきです。
IT起業研究所ITInvC代表 小松仁