東京大学の國吉康夫教授を研究主幹として人工知能の本格的な普及を見据えたプロジェクトを立ち上げている21 世紀政策研究所による、「人工知能の現在と将来、それは産業・社会の何を変えるか」の中で、東京大学大学院工学系研究科特任准教授の松尾豊さんが、「日本の産業に与えるディープラーニングのインパクト」というテーマで講演した内容が公開されており、興味深く参考になると思う。
特に後述の“日本の戦い方は運動路線がよい”という考え方は尤もだと思う。
・昔からこの分野はあり、できることとできないことの領域が少しずつ変わってきているので、できるところ、できないところを的確に見分けることが重要と思います。
ただ、ディープラーニングに関しては破壊的なイノベーションが起こっており、この領域では何十年もできなかったことが次々にできるようになっています。
ディープラーニングは期待しても期待しすぎることがないぐらいに潜在的な可能性が大きく、この技術に投資する意味は大きいと思います
・ディープラーニングでできることを簡潔に言と、認識、運動の習熟、言語の意味理解、主にその三つです。
認識とはコンピューターが苦手としていた画像認識ができるようになったということです。
運動の習熟とはロボット、機械が練習し上達できるようになったということです。
言語の意味理解とは、 コンピューターが言葉の意味を扱えるようになるということです。
・今後どういう変化が起こるかというと認識、運動、言語という順番かと思います。
子供の発達過程 と似ています。
目で見て分かるようになり、体の動かし方が上達し、いろいろな概念を捉えられるようになるので言葉の理解ができます。
今でも自然言語処理の分野はありますが、統計的言語処理であり、意味の理解をしていません。
・日本は少子高齢化し、いろいろな社会課題があります。
特に労働力、肉体労働の労働力が不足しています。
労働力の不足は認識、運動の習熟、眼を持った機械によって解決できるものはかなり多いです。
農業は認識能力があればかなり自動化できます。
介護、廃炉、防災も解決できる可能性はあります。
しかも、そういう技術を日本国内で伸ばすことによって大きな新たな技術産業にすることができるかもしれません。
・子供の人工知能と大人の人工知能を分けています。
子供のできることほど難しいという「モラベックのパラドックス」が破られつつあり、そこで実現しつつある一連の技術のことを子供の人工知能と言っています。
・ビッグデータ、IoTのように今までデータを取ることが難しかった領域でデータが取れるようになりました。
そこに昔からある人工知能の技術を使うといろいろな面白いことができるというのを大人の人工知能と言っています。
大人の人工知能は一見するとすごいことができるように見えますが、後ろで人間が作り込んでいるわけです。
もともとはインターネット、マーケティング等に相性がよかったのですが、今後は医療、金融、教育などの分野でどんどん広がると思います。
・子供の人工知能はどこで使えるかというと、現実世界を見ること、運動の習熟ができるので、現実、実世界に近いところで、典型的には農業、建設、食品加工などと思います。
・日本の戦い方は運動路線がよいと思います。
人間の日常生活、生産の場面で人工知能が高度に使われる時代が早晩来ると思いますが、そこに至るまで
に二つの道があります。
情報路線はメール、スケジュール管理をするなど、情報で助けてくれる賢い秘書のような役割です。
G(Google)、F(Facebook)、M(Microsoft)、A(Apple)、A(Amazon)が強く、日本企業が割って入ることは難しいです。特に英語圏でないと戦えません。
・運動路線はものを動かす、加工する、調理する、掃除するメイドのような役割です。
まだ決勝進出を決めたチームがほとんどありません。
有望なのは自動車、産業ロボット、農業用機械、建設用機械、食品加工機械などかと思いますが、日本では世界的なシェアを持つ企業がたくさんあります。
そういう企業が認識、運動の習熟といった技術を取り入れ、新製品を作り、予選リーグBを勝ち上がることは荒唐無稽なシナリオでない、可能性が十分にあると思います。
その上で、決勝リーグではGoogle、Facebook などと戦うという戦略があると思います。
IT起業研究所ITInvC代表 小松仁