ベンチャーキャピタリストでWiL(World Innovation Lab)共同創業者CEOの伊佐山元さんが、大化けするベンチャーは「人」が9割と話している内容が、興味深く参考になる。
シリコンバレーで数々のベンチャーキャピタル(VC)関係者と話すと、彼らが必ず挙げるのは「人」で、Success followspeople. つまり、技術でもお金でもなく、「人」に成功は付いてくると言う。
創業した時にどれほど大きな志を持てるか、これが会社の伸びしろを決めるといい、大きな志を掲げるところに、人は集まってくるわけで、最初の適切な「妄想力」は非常に大事だというのは、尤もだと思う。
よく言われる話であるが、アメリカでは、日本のように上場するベンチャーはほとんどなく、8割はM&Aで終結し、そのやり方も異なっていて、日本では証券会社が売り上げや利益を計算して買収額を決めるが、アメリカでは人やチーム、そして成長の勢いといった定性的な要素に対しても大きな値段がつくようだ。
また、大企業が新たに1兆円事業をつくるためには、明らかに日本に強みがある製造業と、ソフトウェアの交差点を狙っていかなければならないとうのは、よく理解できる。
日本が競争優位を保持する領域は、自動車、産業用機械、センサー、半導体などで、これらを単に売るだけではなく、ソフトウェアと組み合わせることで、新たなサービスモデルを作ることが、これから企業価値を高める上で不可欠というのは、非常に参考になると思う。
IoTの世界でソフトウェアが世界を変える前提は、ハードウェアがきちんと動くことというのは、非常に大事な点で、最近ではグーグルやアップルが自動車分野に参入しているが、両社とも「自動車はものづくりのなかでは、段違いに難しい」と気づき始めているというのは、よく理解できる。
また、アメリカでは、富裕層と低所得者層は、住む場所も違えば食べものも違う、国境が断絶していると言ってもいい、この距離がどんどん広がったために、エリート層はそれ以外の層の実態がわからなくなったと感じている、共感する力が失われている、などの指摘は、最近の大統領選挙の結果を見ても、的を射ていると思う。
交友関係と情報ソースを多様化する努力を続けないといけない、自分の一次情報を大事にしなければいけない、これを怠ると、やっぱり間違いが起きるのだろうと思うというのは、よく理解できる。
「知と知の組み合わせ」をもたらすには、ひとえに「リアルな空間作り」が不可欠だとし、今、Airbnbがウケているのも、創業者がAirbnbを立ち上げたきっかけが、「サンフランシスコ・アートショーの時にホテルがいっぱいになり、自分の部屋を貸し出したところ、客として泊まりに来たニューヨークのアーティストと話が盛り上がった」というもので、知らない人と出会える要素が大きい、というのも面白い。
多くの日本企業は、新卒で就職し、セキュリティガードのしっかりしているオフィスビルに、35年間通うことが一般的で、これは右肩上がりの経済ではワークしていたが、その時代が終わり、変化に対応しなければならない時代が来ると、付加価値の源泉が「ものをいっぱい作ること」から、「人が思いつかない組み合わせを作ること」に変わり、すると、毎日同じ勤務地に通うビヘイビア(行動)は危険になる、という指摘もよく理解できる。
いろんなバックグラウンドの人が集えるサロンが大事だし、シリコンバレーでは、通りにあるコーヒーショップがサロンになっており、会議室でのミーティングではなく、コーヒーショップで雑談しながら、話が膨らみ、ビジネスの話につながってゆく、そうした、他業種の人たちがぶつかるサロンが、日本には足りないと感じるというのは、的を射ていると思う。
日米両国を比較すると、アメリカのナスダックに上場する会社と、日本のマザーズやジャスダックに上場する会社の平均時価総額には差があるとし、日本は上場件数は多いものの、時価総額が100億円未満で、20億〜30億程度の企業が山のようにあり、当然ながら上場をすれば、さまざまな制約がもたらされるから、理由なき上場は避けるべきであり、時価総額20億〜30億円の企業は、上場に値する理由が見当たらないという指摘は、貴重だと思う。
時価総額500億円、1000億円が見えたら上場させるが、200億〜300億円で限界を迎えた場合は、M&Aも検討し始め、数千億、1兆円の企業に買われて、その一部として頑張ったほうが、社会に与えるインパクトが大きいという判断も、尤もだと思う。
まだ日本では経営者になれる人材が不足している、大企業に眠る技術を切り出して事業化しようとしても、これまでずっと技術のことばかり考えてきた人材が、いきなり経営を行うのは無理というのは、残念ながらよく理解できる。
大きな成功を収めるためには、失敗体験が不可欠で、失敗と成功のバランスは必ず取れていて、成功の量と幅は、失敗の量と幅に依存する、メディアが成功者として取り上げる人も、ほとんどの場合、陰で強烈な失敗を繰り返し経験しているという指摘も参考になる。
社内ベンチャーが失敗するのは、経営判断に甘えが入るからとし、事業の将来性や売り上げの規模ではなく、社内ポリティクスや情で判断されやすいが、本来のベンチャーは、スピーディーに合理的な判断をすることでのみ生き残るべきだから、必然的に判断のゆがんだ社内ベンチャーは淘汰されるという指摘は、尤もだと思う。
IT起業研究所ITInvC代表 小松仁