後藤健二さんがISIL(イスラム国)の手で惨殺された事件は、先の湯川遥菜さんの殺害と共に、ISILをめぐる状況の厳しさを改めて日本人に突き付けたと感じる。
安倍首相が、理不尽で卑劣と強く非難し、米オバマ大統領も、ISILを滅亡させると言っているのは尤もと思う。
ところで、ニュージャージー州在住で作家・ジャーナリストの冷泉彰彦さんが、日本国内での一般的な印象とは異なって、アメリカの左右の対立軸から見ると、安倍政権の政策はハッキリと「リベラル」に属すると見えると言っているのが興味深い。
経済政策上の「アベノミクス」は、自国通貨の価値を下げることを恐れずに流動性を供給してデフレを抑止しようとすること、国土インフラなどの公共投資を積極的に行うこと、こうした姿勢はオバマ政権が2009年に発足して以来、一貫して強く進めてきた政策とピッタリ一致し、アメリカでは完全に「リベラル政策」になるという。
アベノミクスの「第一の矢」も「第二の矢」もアメリカでは「左派」の政策であり、野党の共和党は、このいずれの政策にも強く反対しているようだ。
「第三の矢」の規制緩和に関しては、確かにアメリカの民主党は規制強化の立場で、共和党が規制反対の立場だが、現在の日本に残る「諸規制」の多くはアメリカのリベラルにも理解できない「極端なもの」であり、この「第三の矢」もアメリカのリベラルからは全く違和感はないばかりか、日本経済の成長率改善のためには「早く進めて欲しい」という立場ということになるらしい。
現在問題になっている「テロとの戦い」については、「共和党の軍事タカ派」の方が熱心であるように見えるが、基本的には「内政重視」という観点が中心であり、「強いアメリカの復活」などという「カネがかかる一方で世界から嫌われる」政策を期待する意見は、特に若い共和党支持者の間では少ないようだ。
また、オバマ大統領の目標は国際協調主義による「人道支援」、「人権の確保」であり、そのためには軍事作戦を厭わないという政策らしい。
安倍首相の「積極的平和主義」というのは、アメリカから見ると、右派の「一国主義的な反テロ戦争」というよりも、オバマ政権とその周辺の「リベラル」に近いことになり、経済政策同様に、軍事外交政策においても、安倍政権の政策は「アメリカの左派との親和性」があると言えるということになるようだ。
結局、アメリカのリベラル派は、安倍政権の政策は歓迎しているが、その歴史認識については、サンフランシスコ体制への根本的な反逆を秘めているのではないかという疑念を抱いている点が問題のように見える。
http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2015/01/post-713.php